LONDON in August vol.2

 

■22th
昨晩からWarehouseに滞在中。ここは本当に最高すぎるので、どこかでちゃんと記したい(一番最後に書きました)。そろそろ見てばかりじゃなくて描きたいと思い、画材屋へ行った。安いかなと心躍らせて行ったけれど、ここはポンドの国だったんだった…。下地にいつもジェッソを使っていたが、Acrylic Primerという素材を発見。既に下地加工された既製品のキャンバスに比べると、自分で貼ったジェッソのキャンバスは絵の具との摩擦がありすぎて、いまいちフィットしきっていないのだが、もしや、これは既製品のキャンバスに地が近い!?と胸を躍らせる。帰国したら世界堂で探してみよう。

 

■23th, Research day
Center for British Photographyへ。Evelyn Hoferという巨匠とJohny Pittsという若手の写真がとてもよかった。ENGLANDのサッカー代表のロゴ入りのナプキンとタトゥーの入った太くて黒い手の写真がすごく気に入って、写真集を買った。
その後は、Robert Motherwellというアメリカの抽象画家の絵をみた。Raoul de Keyserというベルギーの好きな画家を思い出した。抽象画だけれども、窓やヨットなど何らかの具象を拠り所にしつつ、キャンバスの上で形や色を探るように描かれていて、絶え間ない研究心を感じた。同じ主題で、こんなにも何度も何度も描くことのできるエネルギーたるや。そして彼のように茶色、使ってみたい。

お昼にベトナムを思い出してフォーを食べたが、たぶん2000円を超えていた。円換算をしすぎては、この街では震え上がって生きていけない。

 

■24th, Research day

Warehouseの住人でアーティストのDiagoから絶対観た方がいいといわれて、Camden Art CentreでMartin Wongの絵を見る。NYで生きたChainese americanのアーティスト。人種差別や格差を描く力強い絵と対極に、ビデオに映る彼の陽気さのコントラストが心に残っている。
そのあとは大地郎おすすめと言うThe Cob Galleryで、Larissa Lockshinの展示をみた。トロント生まれの同世代。つるつるしたサテンのキャンバスに、ソフトパステルで描いていて、筆跡の隙間でサテンの地が煌めく。半地下になった下の階では、光が上から差し込んで、さらに煌めいていた。額のハンドメイド感もよかった。
さてさて、今日はリョウスケの誕生日!KiricoとAlistairたちと夕方に再会して、パブで乾杯。こっちのパブは最高だ、いつも道路まで人が溢れている。Alistairは既に結構出来上がっていてキュートさが増していた。何を話したかは全然覚えてない。そのままKiricoたちの友人のパフォーマンスに行き、アラブな街をまさよって激安地元民御用達のケバブを食べる。毎日が濃すぎて、リョウスケの誕生日が若干かすんでいる気がするのが気がかりであるくらいだ。

 

■25th, 会話のキャッチボールが消えることについて
夜、リョウスケのお祝いもかねて念願のBrawnへ。East Londonにある地中海料理をベースにしたレストラン。生ガキを見つけて嬉しくなった!恐ろしくて金額は見れないままだけれど、おいしくて楽しかったなあ。アヤカちゃんがこっそりお願いしてくれていて、蝋燭もふうふうした。107というワインスタンドにも駆け込んで、とかく楽しい夜だった!Brawnは、ロンドンに来るたびに訪れたい。
ちなみに会話の殆どは、パートナーの不可思議さについての観察。リョウスケという人間は驚くほどぼーっとしていて、昔訊ねてみたら、海の上を浮かんだ漂流物みたいな感覚で生きていると言われたことがある。その様は、私のような人間からすると"足るを知る"様に見えて、かなわないと思うし、時の流れのあまりのゆるさに苛立ちを感じることもある。小さな問いもじっくり注意深く考えるので、痺れを切らしたり、気づいたら寝てしまっている日も多い。一方でたった一言ぽそっと漏らした言葉がわたしの体の芯になる時もある。アヤカちゃんのパートナーも、もちろん違うところもあるけど、方向性としてはそんな感じらしくて、私とアヤカちゃんの脳内をぐるぐるさせる「??」という掴みどころのない不可思議さについて、あれもこれも話した。会話なのに、キャッチボールしてるはずのボールが消えている、という話、あれは本当にそうだよね。消えた、ということも気づかないくらいごく自然に消えるよね。それで私たちは「投げかけられた質問はちゃんと答えるものだ」と思って生きてきたことに気づき、やっぱり彼らにはかなわないのだ。

 

■26th, Erykah Badu...!
All Point Eastへ!まさかの会場が徒歩圏内で、テムズ川に合流する小さな川沿いを歩いて会場に向かった。川には船がたくさん停泊していて(住民税がない?らしく、船で暮らすHouse boatというカルチャーがあるようだ)、水面はとても近い。河岸はずっと散歩できるようになっていて、とても気持ちが良かった。
しかし今日は異常に寒かった。会場入りしたものの凄まじいスコールと雹が振り付けてきて、みんなで僅かな木の下に避難。こっちの人はいつも薄着で平気そうだけど、さすがに震えていた。風邪をほぼ引き、緊急帰宅。でもその後すぐに晴れて、もう一度会場に向かう途中で見た、水面のゆらぎと光は忘れられないだろうな。
さてさて、肝心のフェスはというと全ての体力を使って踊りつづけた。まず戻ってすぐに、Nia Archivesで決まりすぎた人々と共に踊りまくる。そして今回のお目当てErykah Badu様は殆ど神様だった。音楽が鳴っても15分くらいは現れず、ずっとバンドが圧倒的なリズムを刻む。ゆっくり君臨すると、彼女は音楽の神様と一体だった。この肌で存在を受け止めたい、そういうグルーブが会場に集中力をつくっていた。トリのJungleも最高で、Fujiよりも広いであろうステージで自由に踊った。

■27th, Research day

昨日の疲れが残っているもののロンドン最終日ということで、V&Aへ。ヴィクトリア女王がコレクションした400万点の古美術たちが、倉庫の棚のように並んでいた。世界のあらゆる時代と場所の意匠と文化がひしめき合う棚は、アンフェアな交渉で安すぎる値段で買い付けたものも多いのだろうなと、なんとも言えない気持ちも湧いてくる。それでもたとえば自分が陶芸家だったら毎日通うだろうなと思う所蔵力で、現代に沢山のインスピレーションをもたらしているんだろう。
私はそのなかでも、絵付けガラスがとても気に入った。小さな透明のボトルやビーカーに、赤、青、黄色、白などのシンプルな色で、エンブレムや虎、人が描かれていて、キッチュでキュート。18世紀のヨーロッパの物が多そうだ。今、自分の絵でハンカチを作ってもらっているのだけれども、立体や様々な支持体に絵を描くことの面白さを感じていたところだったので、絵付けガラスはどこかでやってみたいなと思う。(とはいえ、絵の制作の現実は、スランプ中。)

 

■Flight Day...
さよならWarehouse!さよならロンドン!のはずが、飛行機飛ばず…。なんとこの日は管制塔のトラブルかなにかで、ロンドン全ての空港で、全ての飛行機が飛ばなかった。ただただ疲労感だけを蓄積し、動かぬ現在地。これがヨーロッパなんだろうなあ。

 

■Last day in London, AYAKA-chan again
ちょうど昨日がバカンス最終日ということもあり、振替えの飛行機は4,5日後くらいまですっかり満席に。そこで陸路に切り替えて、一晩アヤカちゃん家にお世話になることに。素敵な八百屋さんとパン屋さんに行き、野菜だけでつくったスープが、疲れた体にとてもよく沁みた。玉ねぎの皮や人参のヘタも一緒に煮込むと、植物染めの染料みたいなオレンジと紅のあいだのような色と香りがたった。予期せぬロンドン延長だったけれど、彼女と長らくぼんやり過ごした時間は、とても大事な時間だったのだと思う。この時間のために飛行機の足止めをくらったんだろうと思うくらいに。そう、彼女とは人生の地点としてかなり近いところを、それぞれ手探りで生きている。そんな人が隣に居ることは、気づけば随分違うところまで来てしまったかもしれないと時折襲われる孤独のような気持ちの救いだ。加えるならパートナーへの並々ならぬ愛もよかったなあ。


明日からは、陸路での旅が始まる。それも楽しみだ。
フランスの南側を目指し、もう一度秋から夏に戻るぞ!

 

■番外編, Warehouse
さてWarehouseについては、どこから語ろう、、なんだか語ることが難しい。確実に言えるのは、2週間のロンドン滞在の中で、間違いなくここが最も面白い場所だったこと。まず広い天井がいい。Warehouseはその名前の通り「倉庫」で、高すぎるセントラルの地価から逃れて、改装して複数人で住んでいる場所。かっこよく言えばアーティストレジデンスだけど、ちょっと違う。

私たちが滞在した場所はイーストにあるOlympic Parkの川沿いにあって、同世代のペインターやミュージシャン達がたぶん10人くらい住んでいた。たぶんと言うのは、トイレとシャワーがたった一つしかないのに、何故か一度も被らないくらいに、それぞれ自由に生きててよく分からないからだ(笑)初期のメンバーたちが、ただの倉庫だったところから電気や水回りも完全にセルフビルドで改装したそうで、要らなくなった美術の現場でもらってきた板や拾ってきた卓球台などを使って、壁沿いにL字で小さな部屋がいくつも作ってある。中央は、高い天井のまま、広々としたキッチンとダイニング、作業スペースがあって、誰かが料理を作っていたり、夜になるとなんとなく人がぽつぽつと集まってきて盛り上がる。

アーティストレジデンスと言うには違和感があるのは、どこかの組織や機関がつくったものでも、明言されたコンセプトがあるわけでもなく、ただ少しずつ集まった友達たちが、ロンドンの物価にやるせなさを感じつつ、創作をつづけて暮らしているだけだから。それに一晩盛り上がればすぐテーブルの上などあちこち汚れるし、おせじでも綺麗とは言えない!だからこそ、形だけ真似しても、あるいは綺麗になりすぎても、ここに流れているこの空気は作れないだろう。

そう、わたしはこの場所と、ここにいるみんなが本当に好きになった。
好きとというより、こんな場所を自分が暮らす場所にもつくりたいと思った。それはこんな場所を、この世界の風景としてもっと在らせたいという願いなのだと思う。
実際、オリンピック以降にこの辺りも再開発が進んでるようで、取って付けたような新しいマンションが立ち並んでいた。Warehouseの数は相当に減っていて、ここも後何年在るかな、と言う。市場原理は愛おしい場所から少しずつ生きた空気を奪う。規格化されて飼いならされてしまう。どうか次来たときにも、ロンドンにこの風景がありますように。
そしてここに連れてきてくれたKirico、Warehouseのみんな、本当にありがとう!
天井の謎の赤提灯は、去年のハロウィンに、80年代の日本のB級ホラー映画をテーマにオープンハウスをしたときの名残らしい。笑


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■いつかロンドンを訪れる人のために!
私たちが行ったうちの、特におすすめです。
名前をクリックするとGoogle mapに飛ぶよ。

ーmuseum
📍Tate Modarn  
…ここは外せないでしょう。常設展が無料なのはすばらしいけれど、企画展はなお大満足するはず。

ーgallery
📍South London Gallery …セントラルエリアの資本力あるGalleryもいいけれど、郊外の大きな場所は見応え、質ともに素敵なことが多い気がします。どの都市もそうか〜。
📍Camden Art Centre …こちらもちょっと外れに。中庭含めてとても素敵な場所。
📍The Cob Gallery  若い女性たちが働いていて楽しそうだったな(笑)ロンドンのギャラリーはNYみたいに商売人なコミュニケーションを取ってこないことが多くて、大抵若手のアーティストが働いていて、気楽でいい。
📍Thaddaeus Ropac …有名なメガギャラリーの一つだと思う。この辺りはぷらぷら歩いて巡るのがいいと思います。周辺だとTimothy Taylor、Bernard Jacobson Galleryもぜひ。
ps,ギャラリーを沢山教えてくれた石河さん、有難うございました!

ーeat
📍Levan European Restaurant
…サウスのPeckhamにあります。要予約。
📍Brawn …ちょっぴり教えたくないくらい私も好きになった。要予約。
📍107 …Hackneyの上の方にある、ワインバー!混んでいて入れないときもあるかも。
📍Kiln …タイ料理をベースにしたビストロとナチュール。タイでも安くはないよ。笑
📍BAO Soho 台湾料理。バオが美味しい!

ーother
📍Atlantis Art Materials…ロンドンで大きい画材屋といえばここみたい。

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