LONDON in August vol.1

 

■14th, TRANSIT
石油の高騰に円安ときて、探しだした航空券はハノイ経由のVietnam Airline。ハノイでの乗り換えがほぼ丸一日あったので、街に繰り出した。東京より暑い気温に、凄まじい湿度が押し寄せて、数分立っているだけで背中にいくつもの汗がしたたる。不機嫌になって相方と喧嘩をしたりしつつも、1杯400円くらいのフォーや、屋台での料理に舌をつつむ。日本で食べるものと出汁が違った。
もう一つ感動したのは、信号なき道。まあ信号があっても守られないのだけれども、おびただしい数の車とバイクと人間が、言葉もアイコンタクトもなく、コンテンポラリーダンスのように完璧に交差していた。息が合いすぎている。

 

■arrived in South LONDON
ヒースロー空港から列車にのってロンドンの街に入ると、最初に目に入ったのは車窓から見えるブラックベリーと紫色の低木の花。花はbuddleiaというらしい。近くで見ると、小さい花が過剰なくらいに密集していて、たくさん蜜蜂がやってきている。意外にも匂いはしなかった。ブラックベリーは日本の葛葉ポジションで、どちらも本当にどこにでも生えていていた。それにたいそう心を躍らせて、早くもこの土地が好きになった。
しばらくお世話になるMisato-chanから鍵をもらって、先にお家に向かう。彼女のお家があるBeckenhamは、中心部から40分くらい離れたサウスにあった。皇居まるごとかな、と言いたくなるような巨大な公園がいくつもあって、木々はどれも大木。3、4mをこえる木も珍しくなく、よほど気候に合っているのだろうか。お城のような一軒家が立ち並び、のんびりとした時間が流れている。一番近くのスーパーに買い出しに行く途中でも、公園ではリスに会い、森に抜ける道も見つけた。ラベンダーは伸び放題だ。この土地でのガーデニングは難しくないんだろうなあ。肌の乾燥以外、カラッとした光と、木漏れ日がただただ気持ちよかった。


■16th, AYAKA-chan
さっそく、アヤカちゃんと会った。アヤカちゃんは、美味しい食事といい空気が流れている場所を見つけ出す天才で、今日のPeckhamにあるレストランも美味しかった。気に入った彼女は、「ここは、働く人を募集してないかな、聞いてみようかな」と、早速辺りを見渡していて、生きるたくましさがキラキラと光っていた。どこでも生きていけるって、こういうことなんだろう。「わたし、ロンドンにいるのにビールは分からないんだよね」と、2軒目にいったパブでは、大きなグラスに入ったロックのウイスキーをぐびぐび飲んでいた。ちなみに私たちは話し込みすぎて、レストランでメニューを決めるまでに既に1時間くらい話していた気がする。今夜だけでは終わらないんだろうなあと思いながら、それぞれ帰宅。

 

■17th, Nap on the lawnTateの企画展でMondrianを観て、うなる。省略されきった抽象が至るまでの風景画が本当に美しかった。筆捌き、配色、省略の仕方、この人の絵はこんなにも美しいところから始まっていたのかと、うなった。あと額がどれも素敵だったなあ。
大満足した私たちは、この街の人たちに従って芝生に寝っ転がった。ロンドンにはあちこちに芝生の公園があり、わずかな夏の貴重な光を、しかと受け止めるようにみんな昼寝している。いざ後半戦と、コレクション展に戻ったものの、大きすぎてふらふらになった。夜はリョウスケ念願のFish&Chipsを食べた。30cmくらいあって、今日でもう満足と言われた。(本当にこれ以降一度も食べなかった。)

 

■18th, Kirico & AlistairKiricoとAlistairのお家で、和食を作った。南蛮漬けと肉じゃが、ご飯と味噌汁。スーパーや中華スーパーなどをぐるぐる回って食材を集める。こちらでは生魚が全然売っていなくて、中東系の魚屋でmackerelを買った。Kiricoさえ、生魚はまだ買ったことがないと言う。すごい匂いのする店で、今日仕入れたと言われたけど、絶対今日じゃないよねと言いながらも買って、できる限りよく揚げた。
ちなみにKiricoはもうロンドンに住んで10年くらいになるそうで、ロンドンの人に完全になっていた。馴染むと言うより街の人。それで二人のお家が本当に素晴らしかった。パンデミック中に描いたという二人の絵が、家の壁や天井のあちこちにあって、作品たちも本当に素敵(彼女の展示にはぜひ足を運んでみてほしい、こちらからチェック!)。そうやって創作と生活が一つになっている場所は心地よくて、壁に画鋲も刺しちゃだめと言われている日本の自分達の賃貸を憂鬱に思い出した。名家具もチェアもいいけれど、規格化されていない物と場所は、どうしてこんなにも心地よいんだろう。

 

■19th, Market
朝起きて、Kiricoに教えてもらった近所のマーケットへ。誰かが亡くなった時に丸ごと買い取ってくる場合もあるらしく、片足の靴から、額縁に入ったどこかの家族写真、使い方もわからない謎の道具までなんでもガサッと置いてある。私たちは£1〜2くらいで、花瓶と、額を作る道具(戦利品!)、赤色のフリースをゲット。パリでもいくつかの素敵な蚤の市にいったけれど結局ここを越えることはなく、ビンテージはセレクトではなく自分で探し出すのこそ楽しいと知る。こんな場所、日本にもあったらいいなあ!

午後はセンターに戻って、Royal Academy of Artsで夏の大グループ展を観た。すごい集客力で、作品は沢山売れていた。好みな作品は決して多くはなかったが、若手の作品がこうして目に触れて、世界中からいろんな人が買うという場所があることが面白かった。出店数は1600点くらい。1769 年からずっと続いているそうだ。(でも2年ほど前にやっていたMilton Averyの企画展の方が見たかったな…!)

 

■20th, Research day想像以上にGalleryが夏休みで閉まっていたことにしょげていたら、Misato-chanが色々教えてくれて、South London Galleryに行った。Misato-chanは大学院でキュレーターの勉強をして、そのままロンドンで働いている。South London Galleryは、いい場所だった。大きな立体の作品があり、子どもが触ろうとして母に怒られていたら、ギャラリーの人がいいよという。大人はそっと素材を確かめるなどしていたけれど、子どもはまず最初に、ぶらーんと、ぶら下がった。一番よく分かった触り方だなあと尊敬した。
その後はTate Britainに行った。企画展だけでふらふらになった。絶対王朝時代の貴族たちの肖像画など、衣装や装飾品がコテコテの絵画たちのなかで、一際、気になる絵があって近づくと、ドレスの部分が下書きのままになっていた。でもその白く大きくつくられた余白と大胆なレイアウトがとてもいい。自分もついつい色を重ねてしまうけれど、これはやってみたいとメモをする。閉館で追い出されて芝に行くと、若い女の子が本を読んでいる。光に照らされていて、あまりにも完成した風景だった。

 

■21th, Green and Dogs
Misato-chanのお家は最終日。まだ行けていなかった巨大な公園に最後足を運ぶと、想像以上に広すぎてびっくりだ。その広大な芝生の丘をノーリードの賢いワンコたちが気持ちよさそうに走っている。そうそう、こちらのワンコは自由でとてもいい。「犬は立入り禁止」なんて看板は一度も見たことがないし(そもそも注意書きや、看板という存在自体が町中で極めて少ない)、犬たちは人のようにしっかりと権利を有していて、大抵のお店には入れる。自分を人間と思っているタイプの犬も多い。素晴らしい文化だ。
それからこの公園には、Dan Pearsonがつくった十勝千年の森を思い出すような庭があって、ここで働きたいなあと思ったりした。アーティチョークは2mくらいまで成長していてびっくりした。
Misato-chan、本当にお世話になりました。彼女のこれから先の人生にも、たくさんの幸あれ!

 

 

 

vol.2につづく。